息切れ・COPD とは何ですか

  1. 1.COPDとは何でしょうか?
  2. COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)とは息切れや痰を伴う咳が主な症状です
  3. 壊れてしまった肺胞は元には戻りません
  4. 肺が壊れる病気
  5. 肺気腫と慢性気管支炎はなぜ一括してCOPDと呼ばれるようになったのでしょうか
  6. COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)の自然経過
  7. COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)にかかっている人は全国で530万人います
  8. COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)患者さんは自分の病気に気付いていない

1.COPDとは何でしょうか?

COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)とは 肺気腫、慢性気管支炎のことです。COPDとはchronic(慢性) obstructive(閉塞性) pulmonary(肺の) disease(疾患、病気)、日本語では、慢性閉塞性肺疾患と呼ばれる病気です。従来は慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきました。現在でもそのように言った方がとおりはいいでしょう。皆さんの中で歩いたり坂道を登ったときに息切れする方はおられないでしょうか。もしあなたがタバコを長年吸っておられたらそれは肺気腫という病気にかかっているのかもしれません。

肺気腫や慢性気管支炎という病気はあまり耳慣れない言葉で、なじみのない病気かもしれませんが、今増えつつある肺の病気です。肺はちょうどスポンジの泡状の肺胞と呼ばれる小さな空洞の集まりです。肺気腫ではこの空洞が壊れて大きくなります。肺では酸素を取り入れていますので、肺胞が壊れてくると十分な酸素が取り込めなくなります。そのため息切れが起こるのです。

2.COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)とは息切れや痰を伴う咳が主な症状です

図1を見てください。これは破壊された肺胞で、肺胞が大きくなって不規則に大きくなっています。正常の肺胞の図2と比べると違いがよくわかるでしょう。また図3は健常者、喫煙者の妻、 中等度の喫煙者、重度喫煙者の肺です。喫煙により肺が破壊されていくが様子がよくわかりますね。肺気腫の主な症状は息切れです。息切れの程度は様々です。病気の症状の最初は軽く、坂道や階段を登った時だけに現れます。それが段々と進行していき、平地を歩いていても息切れするようになります。最終的には話をするのも息苦しくなります。他の症状としては慢性の咳でしばしば一日中でます。肺気腫の症状の特徴として、ゆっくりとですが徐々に悪くなっていくこと、毎日出現すること、運動時に悪化することなどがあげられます。毎日でないような場合は喘息や心臓病などほかの病気を考えなければなりません。また風邪などをひくと息切れは強くなります。診断には肺活量の測定(正確には1秒率といって肺活量のどれだけが最初の1秒間ではき出せるかといった指標などを用います)を行います。また胸のレントゲン写真も特徴的な変化が現れますので、これも用います。CTも診断には有用です。肺気腫の一番の原因はタバコです。肺気腫はタバコを吸っている人がすべてなる病気ではありません。タバコで肺胞が壊れやすい人がいます。このような人がタバコを吸い続けると肺胞は段々と壊れてきます。

肺気腫病変の強いCOPD患者さんの肺胞と正常の肺胞

図1:肺気腫病変の強いCOPD患者さんの肺胞 正常肺に比べ肺胞が拡大し破壊されているため、肺胞が大きくなっている。
図2:正常の肺胞 肺胞は規則正しく並んでおり 、肺胞の拡大は認めない。

健常者、喫煙者の妻、 中等度の喫煙者、重度喫煙者の肺

図3:喫煙者の肺の実際 喫煙歴が長くなればなるほど正常肺の構造は壊れていきます。
また炭粉やタール分の沈着で、肺は黒くなっていきます。

3.壊れてしまった肺胞は元には戻りません

残念ながらいったん壊れてしまった肺胞は元には戻りません。ですから肺気腫になると一生息切れと付き合うことになります。人間の肺の機能は年とともに低下してきます。肺気腫の患者さんでは人に比べてこの機能のおちかたがきつく、最悪の場合天寿を全うできなくなります。しかし禁煙をすると呼吸機能の落ち方がましになり 呼吸機能の悪くなり方がゆっくりになります。表1をご覧ください。
COPDの呼吸機能の経過

表1:COPDの呼吸機能の経過 禁煙した時と禁煙しなかったとき
禁煙しないと呼吸機能の落ち方は強くなり、息切れや死亡に結びつきます。

途中で禁煙した場合には肺の機能の悪くなり方がゆっくりになるのがわかります。治療の第一は禁煙です。禁煙なくしては肺気腫の治療をいくら行っても効果が上がりません。現在禁煙のためガム、シール、内服薬がでてきていますので、以前ほどに禁煙で苦しい思いをされることはなくなってきました。ただこれらの薬は張る、噛む、飲むだけで止められるという魔法の薬でないことも知っておいてください。禁煙にはそれなりの努力と意志は必要です。また禁煙ガムが薬局で手にはいるようになりました。一度薬局で尋ねてみてください。さらに最近は呼吸器科や循環器科など色々な科で禁煙指導を行っています。インターネットで探してみてください。現在当院では実施していません。

COPDの薬物療法としては気管支拡張剤がもっとも使われています。これは壊れた肺胞を元に戻す薬ではありませんが、吸入薬で用いられることが多いです。このほかテオフィリン製剤と呼ばれる飲み薬が使われることもあります。この薬も気管支拡張作用がありますが、ほかに呼吸をつかさどっている筋肉の力を増強することが知られています。またいよいよ呼吸困難が強くなると酸素吸入という方法もあります。酸素吸入というと病院でしかできないように思われがちですが、空気中から酸素を取り出して濃縮し、濃度の高い酸素を吸入できる機械があります。在宅で使え、保険が適用されますので息切れにお悩みの方は主治医にご相談ください。

4.肺が壊れる病気

COPD(肺気腫 慢性気管支炎)

COPDという言葉も少しは定着してきているようですが、COPDとはchronic(慢性の) obstructive(閉塞性の)pulmonary(肺の)disease(病気)の4つの言葉の頭文字をとったものです。以前は、肺気腫や慢性気管支炎と診断されていました。現在は、肺の空気の流れが悪くなる病気という意味で両者を含めてCOPDと呼ばれています。COPDでは肺は実際にどうなっているのでしょうか。

まず、図1の胸部CT写真を見て下さい。これは正常人の胸部CT写真です。CTは御存知のように体を輪切りにして見た写真です。写真では上が胸の前で下が背中です。白く写っているのは、背部と肩甲骨です。黒く写っているのが、肺です。正常の人では、肺胞と呼ばれる組織の中に血管が写っています。
次に図2を見て下さい。これはタバコを30本40年間吸っていた人の典型的なCOPDのCT写真です。図1と比べると正常の肺胞部分が無くなって真黒に写っているのがわかると思います。これは肺の正常部分が壊れて無くなってしまっている事を表しています。これだけ肺胞が無くなってしまっては、呼吸も苦しくなるわけですね。正常の肺がスポンジのように目のつまった泡粒の塊とすれば、COPDの肺はヘチマのように穴が空いているのです。
正常人の肺のCT写真と典型的なCOPDのCT写真

図4:正常人の肺のCT 正常の構造が保たれている
図5:タバコを30本40年間吸っていた人の典型的なCOPDのCT写真 正常肺の構造が壊れ、気腫性病変のため正常肺が無くなっている。特に向かって右の肺は正常肺がほとんどなくなって穴があいている。

COPDは肺が壊れる病気です。残念ながら壊れた肺を元に戻す薬は今の所ありません。早めの禁煙、タバコを吸わない。COPDの最大の予防方法です。

5.肺気腫と慢性気管支炎はなぜ一括してCOPDと呼ばれるようになったのでしょうか

COPDとはchronic(慢性) obstructive(閉塞性) pulmonary(肺の) disease(疾患、病気)、日本語では、慢性閉塞性肺疾患と呼ばれる病気です。長々しいので、略してCOPDと略語で呼ばれます。この中には肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれている病気が両方含まれています。

さて病気の定義ですが、”慢性気管支炎とは1年のうち少なくとも3ヶ月以上痰を伴う咳が続き、しかもこの状態が2年以上続く病気”です。この定義からわかるように慢性気管支炎は”病歴”から診断することができます。(正確には気管支拡張症や結核といった他の気管支病変を否定しなければなりません。)このような定義は休業補償のための定義であって、社会医学的な定義です。

一方”肺気腫とは肺胞(肺で二酸化炭素を排出し酸素を取り入れる部分)の破壊による終末細気管支より末梢の気腔の異常な永久的な拡大をきたしている肺の病態”という病理学的な形態診断です。両者は共に合併することが多いため、COPDとひとまとめにされるようになりました(本当はもう少し、色々と議論があります)。

ではなぜこのような違う病気を、COPDという言葉でひとまとめにするのでしょうか。
理由は大きく分けて4つ挙げられます。

  1. 肺気腫は病理学的な形態診断なので、実際に生きている人から肺の一部を切り取って調べるのは不可能に近いのです。しかし近年CTをはじめとする画像診断の発達によりより詳細な肺の構造が負担なく検査をできるようになった。
  2. 肺気腫と慢性気管支炎は、オーバーラップしている部分が多い。
  3. 肺気腫と慢性気管支炎の両方の病気の原因が、大部分は喫煙であるということがわかっている。
  4. どちらも臨床症状に多少の違いはあるが、気流の制限という病態が一致していること。

以上のような理由で最近はCOPDとしてひとまとめにして扱われることが多くなりました。

6.COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)の自然経過

ヒトの呼吸機能は20才位で、最高に達します。それ以降は加齢とともに低下していきます。同じ呼吸機能を持った人でも、下がり方がきつい人とそうでない人があります。この原因は何でしょうか。現在一番はっきりとしているのはタバコです。

1,700人の成人を対象とした研究では、FEV1(1秒量)という指標を使って見てゆくと、1日10本以上吸うと、FEV1の落ち方は明らかに非喫煙者に比べて、大きいことがわかっています。この事はCOPDの患者さんだけでなく一般人を対象にした点で重要です。普通の人でもタバコを吸うと呼吸機能の落ち方が強くなるのです。またFEV1の落ち方は50才~70才で強く現れてきます。また、喫煙の影響は女性よりも男性に強く現れてきます。

おもしろいことに、禁煙をした人では、FEV1の落ち方は非喫煙者と同じ位になっていました。また35才以前に禁煙をするとFEV1はむしろ増えていました。50才以上でも禁煙すると、一度低下した呼吸機能は元には戻りませんが、落ち方の速さは非喫煙者と同じになりました。

注) FEV1:1秒量と呼びます。一秒量はいきおいよく息を吐き出した時に最初の1秒間に吐き出せる息の量です。CODPの指標になる呼吸機能の数値です。

7.COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)にかかっている人は全国で530万人います

ではCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんは日本全国に何万人位いるのでしょうか。これを調査した研究では40歳以上の人の8.5%(男性13.1%、女性4.4%)がCOPDにかかっているとされています。このうち、COPDと診断されていなかったのは90%にものぼります。(図1)呼吸機能をはかってみないと診断できないのです。

幸いCOPDと診断されていた人のうち軽症は79%で中等症以上は21%です。それでも全国には100万人以上の治療を必要とするCOPDの患者さんがおられることになります。

特に70歳以上では211万人がCOPDにかかっていると推定されます。
もしも、これを読んでいる方で、階段や坂を登って同年齢の人より息切れがするようでしたら、一度は近くのお医者さんで呼吸機能をはかってもらって下さい。呼吸機能は測ってみないと分かりません。同世代の人と歩いていて遅れるようになれば、心肺機能が落ちている可能性があるので、医療機関に相談して下さい。

未受診または診断されていない患者数

(出典:福地ら、NICE Study. 2001年)
図はhttp://www.gold-jac.jp/copd_facts_in_japan/より引用

8.COPD(慢性閉塞性肺疾患=肺気腫、慢性気管支炎)患者さんは自分の病気に気付いていない

イギリスからの研究報告では、COPD患者の5人に4人は病気に気が付いていないと報告しています。さらには、COPD患者と診断されても、約3分の1の患者は喫煙を続けており、この喫煙を続けているCOPD患者はよりニコチンへの依存度が高く、COPDでない者に比べて喫煙本数が多いので、病気が進行して手遅れにならないうちに手を打つ必要があると著者らは書いています。またCOPDの進行を食い止めるのは禁煙であり、誰が禁煙を必要としているCOPD患者であるか拾い上げることが重要と述べています。英国における”本当の”COPD患者が何人くらいいるかを調べるため、全国の1万5千人を対象として分析しています。対象となった8,215人のうち1,093人が呼吸機能によりCOPDと診断されました。しかし実際に直接面接した結果から、このCOPDと診断された人達を分析すると、80%の人がCOPDとは診断されていませんでした。つまり5人に4人は病気と気づいていなかったのです。また重症ないし、超重症のCOPD患者(つまり息切れが強い)に限っても、半分以下しかCOPDと診断されていませんでした。またCOPD患者で喫煙者は、よりニコチン依存が強く、禁煙をしようとしませんでした。著者らは「この隠れている病気COPDに、もっと社会は注意を払うべきだ」と述べています。またこの研究では「COPDの診断は一般内科でできる。初期のCOPD患者ほど禁煙による利益が大きい。」とも述べています。早期の診断が病気の進行を止めるのに重要です。